2007年 06月 06日 ( 2 )
第十三回 池田憲章の特撮研究
5月7日の講座の模様を池田憲章さんの書下ろしでお伝えします。

第十三回のテーマは 山崎貴監督の映画宇宙

山崎貴さんは白組の島村達雄社長の下で映画やCFの合成パートの特撮マンとして個々の合成カットの演出を手がけていた。伊丹十三総監督の映画「スウィートホーム」(1984)のラストに登場する怨霊の夫人が浄化して赤ん坊を抱きしめて昇天していく重要カットを担当、情感あふれるエモーショナルな光と動き、解放感に満ちた名カットだった。山崎氏はやがて合成マンから映画全体の特撮ビジュアルとドラマ部分全てを演出する新しいタイプの特撮マンに成長していく。

白組と製作会社ROBOT(映画「踊る大捜査線」を製作した会社でもある)が長く企画し続けている特撮CG大作映画「鵺(ぬえ)」の原案・デザイン、VFX設計、監督に就任、その演出力を高めるために「まず映画を1、2本監督しておけ」とGOされたのが、劇場映画「ジュブナイル」と「リターナー」(共に山崎貴監督作品)である。

映画「学校の怪談」シリーズを手がけて大ヒットさせた柴崎幸三撮影監督との出会いが大きく、その適格なカット・ワークと山崎監督の特撮ビジュアルが、ナチュラルでドラマをふくらませるビジュアル連鎖を生んでいて、「ジュブナイル」「リターナー」「ALWAYS 三丁目の夕日」と一作ごとに成果のレベルを上げ続けている。特に「ジュブナイル」の撮影中に上田なりゆき照明監督から「CGにどういう照明を当てるか、考えている?俺ならここにCGのキャラが立っていたら、芝居、サスペンスに合わせて細かく照明演出するよ」と指摘され、「CGに照明設計を与えていなかった」と目が覚めるような体験をして、特撮マンとしてドラマティックさとサスペンスを上げる大きなヒントを手中にしていく。

白組はCFの合成でのうまさで知られた会社だったが、社内に今でも現役で稼働中のモーション・コントロール・カメラがあり、CFをスムーズに制作するために造型製作パートもあって、CGソフトのフォトリアリスティック・レンダ−マンや最新のハード・ソフトと、技術者の精鋭を養成し続けている。映画スタジオとしても高度の機能を持つ珍しい合成エフェクトの会社なのだ。

山崎貴監督の仕事を支えるCG、合成演出の技術スタッフが着実に育っていてくれるのが何より頼もしい感じだ。

「ALWAYS 三丁目の夕日」を見ると、昭和30年代の都電や古風な自動車が走る街並の情景や建設中の東京タワーのビジュアルが風景としてはっきり後景に押さえていて、ドラマ部分が前面に出て、グレードの高さに反比例するビジュアル映像の見せ方、演出の決断が絶妙だった。

宅間先生が飲み屋から焼き鳥をミヤゲに家へホロ酔いで向かい、暖かい光に満ちた家と奥さん、娘さんに出迎えられるシークエンスは、心理的な特撮カットともいうべき《悲しい現実と対比される》フィクション性を見せて、山崎貴監督のビジュアルだけに頼らない映像作家としての円熟を予感させ、CGカットを多用する他の特撮シーンとは一線をひくドラマティックなエモーショナル・カットだった。これからの特撮映画を考えた時、この視点はとても重要な部分である。

「三丁目の夕日」の続編では、どんなビジュアルと映画作家としての成果を見せてくれるか…そして、SFタッチを前面に出した新作企画を山崎氏自身が持っているというウワサもあり、ここ何年か押さえてきたSFビジュアルの爆発もひさびさに見せてもらえるのか、期待しておきたい。もっとも動向が注目される特撮マンの一人だ。

〈配布資料〉
雑誌『宇宙船』(2000年)春の号(92号)「ジュブナイル」の山崎貴監督インタビューと合成シーンのメイキング解析(池田憲章/取材・構成)
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by smallschool | 2007-06-06 23:25 | ★池田憲章の特撮研究
第十二回 池田憲章の特撮研究
4月23日に行われた池田憲章の特撮研究の様子をお伝えします。前回に引き続き池田憲章さんの書下ろしです!

第十二回のテーマは 樋口真嗣監督の特撮の新世紀特撮

樋口真嗣さんは何としてもプロの特撮現場に参加したいと考え、1984年東宝の新作特撮映画「ゴジラ」(中野昭慶特撮監督)の特撮美術班の助手になり、劇場特撮の作品作りを体験する。その後GAINAXのアマチュア特撮の8ミリ映画「ハヌの大蛇の逆襲」の特撮美術と演出を手伝い、GAINAXの友人たちが挑んだビデオ・アニメ「トップをねらえ!」、TVアニメ「ふしぎな海のナディア」の絵コンテに参加する。

1988年実相寺昭雄監督の「帝都物語」の特撮パートを演出する大木淳吉氏から特撮シーンを中心にしたイメージ・シーンや絵コンテを自由に描いてほしいと依頼され、25歳の樋口氏はさまざまなビジュアルのアイデアを描き上げた。しかし、まだ合成もオプチカルの時代、その画面イメージは奔放すぎてあまり画面に反映されなかった。だが、大木氏は樋口氏を次の時代の特撮演出に育てたいと考え、映画「超高層ハンティング」「未来の思い出」「ウルトラQザ・ムービー/星の伝説」「大霊界」と次々にイメージボード、絵コンテを描かせ、美術スタッフとしても特撮現場のスタッフに参加させた。

やがて「帝都物語」で知りあった特殊メイクの原口智生氏が初監督するオリジナルの特撮ビデオ作品「ミカドロイド」の特技監督を担当して、特撮演出デビューを果たす。桜井景一特撮カメラマン、林方谷照明監督、水野伸一美術監督の特撮スタッフがその画面を支えた。一方、TVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(庵野秀明総監督)の絵コンテ・メンバーとして活躍、盟友庵野作品の大ヒットに貢献した。アニメと特撮の両方のアプローチから絵コンテ、ビジュアル設計を続けてきたため、樋口監督の映像にはマスター・カットとそれをフォローするカットの連続設計ではなく、全カットを同時に脳内にイメージするようなカット同士が互いに支え、刺激しあう独特のマルチ・モンタージュの効果を出す性格が出ていて、それは「ガメラ大怪獣空中決戦」(金子修介監督)以降の平成ガメラ3部作の中で、1作ごとにステップアップし、前作のビジュアルを常に凌駕する画面を生みだそうとして、その現場の緊張感、アイデアの模索がビジュアルの中に満ち満ちていた。

平成ガメラ3部作を中心に、斬新なカット設計とそのメイキングに触れたムック本の絵コンテ、インタビューを紹介し、樋口監督の演出テクニックを解析した。

樋口監督が次第に作品全体をコントロールして、さらに特撮ビジュアルを効果的に突出させたいと考えるのも道理で、「ローレライ」「日本沈没」と人間のドラマ部分と特撮を1人で監督する道へと進みはじめる。山崎貴監督と比べた時、特撮とドラマ演出とは何か…と特撮マンが進む方向としてとても興味深い。樋口監督は、今自分を特撮も撮れる映像作家としてプロデュースする段階に入ったのだ。

デジタル合成のエキスパート松本肇氏や同じ会社モーターライズの同僚でアニメ、特撮、ゲームの多彩なCG合成を手がける俊英佐藤敦紀氏、神谷誠特撮監督、操演、火薬効果の亀甲船の根岸泉氏、特殊メイクの原口智生氏、尾上克郎特撮監督と特撮研究所のミニチュア撮影、照明、美術、操演、合成クルーと樋口特撮を支える技術スタッフとのコンビネーションも1作ごとに厚みを増している。特撮マンが自分をどうプロデュースしていくかの新タイプのディレクターである。

参考資料も使って、スタッフから聞いた撮影現場のエピソードもお話したが、樋口演出については単行本化されているTVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の絵コンテも読んで、特撮のビジュアル設計と技術検証するとその発想法が見えてくるかと思う。

〈配布資料〉
平成ガメラ3部作のムック本、研究本の特撮(主に合成、CGシーン)の絵コンテから撮影CG、完成画面の解説ページをコピーして配布した。
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by smallschool | 2007-06-06 23:19 | ★池田憲章の特撮研究


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